2006-03-05

[映画]迷夢/미몽

15:30
韓国映像資料院・古典映画館
自由席 2000W
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監督:ヤン・ジュナム/양주남

演:ムン・イェボン/문예봉、チョ・テグォン/조택원、キム・インギュ/김인규
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 韓国映像資料院が進めている過去の韓国映画フィルムの探索事業により、2005年末中国で新しく3編のフィルムが発見された。その中の1編、この「미몽(迷夢)」は1936年の製作で、現存する最古の韓国映画である。そこで、<最古の韓国映画「迷夢」発掘公開展>と銘打ち、今回発見されたフィルム3編と2004年に発見された4編を上映する特別企画展が催されることになった。発掘した貴重なフィルムをこんなふうにすぐに、しかもタダみたいな料金で公開上映するところが韓国の良い所だ。
 古いフィルムで映像も音も状態が良いとは思えず、セリフが聞き取れるか、ストーリーが理解できるか心配していたのだが、1936年作品には日本語字幕がついていた。ついでに言えば、主人公が買った娘の服は「30円」で、男と飲むビールのラベルには「麒麟」の絵があった。当時の様子が窺えるのが嬉しく、かつ心が痛む。
 映画は夫婦喧嘩の場面で始まる。妻が毎日出歩いてばかりいるのが夫は気に入らない。ある日、妻は自分のバッグを拾ってくれた男と飲みに行く。実は妻の美しさに目をつけた男がバッグを掠め取って親切を装ったのだが。酔って帰った妻に夫は離縁を宣告し、妻は夫と娘を捨ててホテルの豪奢な部屋で暮らす男の元に走る。二人は優雅な甘い生活を楽しむが、男が実は洗濯屋に下宿する文無しで、金のために強盗を働いたことに気づいた女は、男を警察に通報してホテルを去る。女は釜山行きの汽車に乗るためタクシーを急がせ、スピードを上げたタクシーは女学生を轢いてしまう。轢かれたのは女の娘だった。病院で娘は命を取り留め、娘に付き添っていた女は服毒自殺を図る。夫が拳銃を片手に病室へ駆け込んで来た時、妻はすでに死を迎えていた。
 ネット上で「미몽」というハングルのタイトルを見た時、漢字表記の見当が全くつかなかった(したがってタイトルの意味も全く分からなかった)のだが、「迷夢」となれば道を外れて迷いながら夢の中のように人生を漂う主人公の行動を表しているのだろう。
 47分という短い映像で、何度か映像が途切れて場面が飛ぶ箇所もあり、ストーリーや人間関係の詳細が完全には分からない。夫婦仲が悪いのは妻の奔放な性格のためらしく、妻は毎日高い洋服を買い漁り、初対面の見知らぬ男と二人で酒を飲みに行ったり、半裸で舞台に立つ前衛的な男性舞踊家に近づこうとしたりするエピソードが描かれる。その一方で、夫婦の家の軒には鳥籠がぶらさがり、これはやはり「籠の鳥」の象徴なのだろう。所々に面白い映像が見られる。妻が化粧をする鏡台の鏡に夫の顔が映っている構図から、妻が鏡を回転させて夫の顔を消してしまう。妻・夫・娘の顔が縦に斜めに並ぶ構図では、一番手前の妻が最も大きく、ピントも妻に合っている。伝統的な朝鮮の住宅の夫婦の家と、天蓋付きベッドに洒落たテーブルとイスが備えられた西洋風で豪華なホテルの部屋の対照。ソウル駅で汽車に間に合わず竜山駅までタクシーを走らせる場面では、汽車とタクシーが並行して競走しているかの如く見せつつ、主人公を破滅へと導く。
 音楽はすべて洋楽(ジャズ?とクラシック)で、意外に明るく軽快な印象を受ける。
 ちなみに、1936年製作の日本映画を調べてみたら、溝口健二「祇園の姉妹」とか岡田敬「エノケンの江戸っ子三太」とかマキノ正博「忠烈肉弾三勇士」とかがあった。



4 件のコメント:

  1. ななさん、はじめまして。ソウル在住のよんじゃです。
    私も「迷夢」「家なき天使」「半島の春」観にいきました!「迷夢」について検索したところ、偶然このブログを発見しました。ななさんんの映画紹介がとてもよく書かれているので私のブログでこのサイトを紹介させていただきました。
    ななさんの映画の鋭い考察、とても勉強になりました。これからもよろしくお願いいたします。

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  2.  よんじゃさん、初めまして。
     コメントありがとうございます。
     よんじゃさんのブログも拝見しました。ちょうど3編同じ映画をご覧になったんですね。もしかして同じ時だったでしょうか?
     私が「迷夢」を見た時は、現存する最古の韓国映画ということで詰めかけたお客さんが客席に入りきれず、急遽2回目の上映を決定、1回目を15分繰り上げて開映しました。
     韓国らしい融通の利かせ方だなぁと思いながら、一番後ろの補助席で見ました。
     今回見られなかった「軍用列車」と「朝鮮海峡」を見る機会がまたあると良いのですけれど。
     よんじゃさんのご感想も楽しみにしてます。
     こちらこそ今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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  3. ななさん、お返事ありがとうございます。
    私も今回見られなかった「軍用列車」と「朝鮮海峡」やその他植民地期の映画をこれから機会があったら見たいと思います!

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  4. ななさんお久しぶりです。東京で『二つの名前を持つ男 キャメラマン金学成・金井成一の足跡』というドキュメンタリー映画を見てきました。金学成は『家なき天使』のキャメラマンで、今回の映画にも『家なき天使』のカットなどがたくさん使われてしました。
    もし機会があったらこちらの映画も見てみてください。チョンジュの国際映画祭でも上映したとのことです。
    私のブログでも少し感想を書いておきました。

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