
『天国の涙』
2011年3月8日(火)
国立劇場ヘオルム劇場
3階 B列13
演出:ガブリエル・バリー
脚本:P.B ファン
作曲:フランク・ワイルドホーン
作詞:ロビン・ラーナー
韓国語歌詞:ヤン・ジェソン(양재선)
出演:チョン・サンユン(정상윤)、ユン・コンジュ(윤공주)、ブラッド・リトル、ホン・リュニ(홍륜희)、キム・テフン(김태훈)
まず、プログラムに載るシノプシスです。
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死んでも手放すことができない愛がある。
それぞれの愛を守るための彼らの選択。
そして、その選択が変えてしまった巨大な運命!
時は現在。人気歌手ティアナ(티아나)を訪ねて来た中年の韓国人男性が、半分に裂かれた一人の女性の写真を取り出して、物語は始まる。
逆らえない惹かれる思い!
時代は戦雲に巻き込まれた1967年ベトナム。しかし、サイゴンのムーランルージュと呼ばれる「ファルクラブ」だけは、毎日華やかなダンスと音楽で夜を照らしている。そして、そこ、すべての人の目を奪う魅惑的な歌手リン(린)。作家の夢を抱く韓国軍のジュン(준)は、彼女を見て一目で恋に落ちる。すでに将校と婚約していたリンは、初めはジュンに無関心だったが、彼との出会いが度重なり、強く惹かれるものを感じる。
運命をかけた選択!
ジュンの愛の前で葛藤したリンは、自分が本当に愛する人がジュンであると気づき、彼について韓国へ行く決心をする。しかし、アメリカ行きの飛行機チケットが欲しいリンの友人クエン(쿠엔)が、将校に二人の関係を暴露し、裏切られた気持ちと嫉妬にとらわれた将校は、自分の権力を利用して拒絶できない提案をする。
すべてをかけたたった一度の愛!
ジュンはリンを守るために永遠の愛の約束を残して、将校の命令書を受取り、前方へ向かう。熾烈な戦闘の中でジュンはベトコンに捕虜として捕らえられ、ベトコンの一員であるリンの兄であるサン(썽)の助けで辛うじて脱出する。ジュンはようやく廃墟となったサイゴンに戻ってきたが、クエンからリンがアメリカへ立ったという話を聞いて……
愛を諦めないジュンの前に展開する巨大な運命は?
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物語は、来韓した世界的人気歌手ティアナを訪ねて来た中年男性が、ティアナ(ユン・コンジュ)に自分の過去を語るという入れ子型の構成になっています。冒頭でティアナの部屋を訪ねてきた中年男性が物語を始め、そこから舞台はベトナム戦争中の過去の物語へ、そして最後にまた冒頭に戻って中年男性とティアナが父娘の対面するという結末になります。
過去の物語の中核はジュン(チョン・サンユン)とリン(ユン・コンジュ)と米軍将校(ブラッド・リトル)の三角関係で、リンの心変わりに気づいた将校はジュンを前線に追いやり、豊かな自由の国アメリカへ脱出したいクエン(ホン・リュニ)は将校に味方してジュンとリンの間を引き裂き、ベトコンゲリラとして活動しているリンの兄サン(キム・テフン)は妹のために敵であるジュンを助ける決断を下し……という人間模様。
さらに上記シノプシスで省略されている内容を付け加えますと、リンはジュンの子供を身ごもっていることを隠して将校と共にアメリカへ行くことになり、その直前にサイゴンへ戻ってきたジュンに対してクエンが「リンは将校とアメリカ行った」と嘘をつき、リン・将校・クエンの3人はアメリカへ渡るものの、リンはジュンの子供を妊娠していると知った将校に家を追い出され、娘を産んだリンは死亡、リンを失った将校は自殺、クエンがリンの娘を引きとって……時は流れて、クエンは保護者兼マネージャーとしてリンの娘を人気歌手ティアナとして成功させ、ティアナは父の国である韓国で公演するために来韓してきた……となってます。
というわけで、『ミス・サイゴン』を連想させるとはいえ、ストーリーも人間関係もうまくまとめられています。音楽も悪くないです。各場面の演出は面白く、舞台美術が魅力的。頻繁にセットが変わるのに緩みや違和感がなく、場面転換の処理もうまいです。
にも関わらず、なぜか舞台が盛り上がりません。舞台が寒々とした印象で、感動が伝わってこないのです。何となく、舞台のバランスが悪いように感じられます。
どうしてだろうと考え続けて、第一幕終わり近くでその理由に思い当たりました。
ジュンのソロが妙に長く、ジュンが舞台にいる時は他の役者が舞台にあまりいない。プログラムのミュージカル・ナンバーのリストを見ると、第一幕のジュンのソロは1曲なのですが、実際にはジュンの一人舞台のような場が何度もありました。大劇場のミュージカルなのに、ジュンがソロでコンサートしているような演出。
さらに、ストーリーから分かるように、この作品はクエンと将校がキーパーソンなのですが、この二人の見せ場があるようなないような。第二幕でリンを失った将校が結局自殺する場面での、ブラッド・リトルの歌と演技は凄かったです。でもそれが、あぁ、唯一の見せ場に全力投球したのね、と見えちゃったりして。
結局、この舞台、キム・ジュンス on Stage として製作・演出されているのですね。
過去にブログ記事で取り上げたように、『天国の涙』の企画はキム・ジュンスの起用がかなり早い段階で決定していました。フランク・ワイルドホーンを始めとする海外スタッフを引っ張り出せたのは、ジュンスの出演が決まっていたから。主役の名前「ジュン」はもちろん「ジュンス」から取ったものでしょう。魅力的な舞台美術は相応の製作費を計上できると踏んでたから。初めにジュンスありきの企画・製作なのです。
そして、ジュンスありきの企画・製作ですから、舞台でジュンスを光り輝かせなくてなりません。ゆえに、演出は「キム・ジュンス ソロコンサート風」。客席のほとんどがジュンス・ファンだったジュンス出演回はさぞ盛り上がったことでしょう。
『天国の涙』でのジュンス起用は、韓国で全盛のスターマーケティングのキャスティングとは別物です。
こんな手法で舞台を製作するのであれば、毎回ジュンスが出演するのが筋だったと思います。週に2ステージ程度をアンダースタディにして。そこまでジュンスにギャラを払ったら、赤字公演になるのかもしれませんが。
実際のキャスティング日程は、公演前半こそジュンスがそれなりに出演しましたが、後半の出演予定はぐっと減ってました。ジュンスの舞台が話題になれば、他のキャストの回、後半の公演のチケットも売れ始めるはず、というのが製作会社の思惑だったのだろうと想像してます。
あるいは、物語の本来の形に沿って、登場人物それぞれの立場と心情をきっちり表出させて人間模様を色濃く描き出す演出にしていれば、作品の評価も高まり、他キャストの回ももう少し売れたのではないかなぁ。ジュン役の相対的比重は低くなりますが。
でも、そもそもジュンって、リンと恋に落ちた後は、前線に投入されて、ゲリラに捕らえられて、サンに助けられて、クエンに騙されて、リンを将校に奪い返されて……ってずっと受身で振り回されてる役なんですよね。企画と脚本に齟齬があったか……。
ニューヨーク進出のためには練り直しが必要そうです。
最後にメモ。プログラムは「1次」(7000W)と「2次」(1万W)の2種類がありました。2次の方が写真が多いそうです。ロビー売店で公演グッズの販売いろいろ。携帯ストラップ、タンブラー、エコバッグ、ネックレス等々。チケット持参でネイチャーリパブリックへ行くと、1万W以上お買い上げで10%引とプレゼントあり、というタイアップキャンペーンもやってました。これは完全に日本人観客向け。

感想ありがとうございます
返信削除ジュンスファンでジュンス回見た友人の感想も、いまひとつ芳しくなかったです
音楽が良いようでしたら
練り直しての再演期待したいですね
天国の涙は、やはりジュンスありきの企画・製作だったのですね(*^_^*)
返信削除「ジュンスを光り輝かせる為の企画・製作」だったからこそ、ジュンス出演じゃない回の盛り上がりが、今一つだった・・・そんな感じなのでしょうか?
役名の「ジュン」もジュンスからきているってことで、更に納得しちゃいました(^^)
個人的には「キム・ジュンス ソロコンサート風」であったならば、なおさら見たかった。なんて思っってしまいましたが(^^ゞ、ジュンスファンですら、いまひとつ芳しくなかったと感じていたなんて・・・驚きです(+_+)
演出がジュンスの為であったならば、毎回、ジュンスに出演してもらえば良かったのでしょうけど、
きっとギャラを払ったら赤字になっちゃいそうですね(^^ゞ
前半をジュンスの出演を多くして、すべてをジュンス人気に肖ろうとしたのでしょうかね?
韓国らしいっていえば、そうなんですが・・・(^^ゞ
rinrinさん
返信削除ジュンスファンでも今ひとつでしたか…。(^-^;
韓国は前売で完売という公演が少ないので、幕が開いてからの評判でチケットの売れ行きが決まるという、健全な興行が基本なんですよね。
『天国の涙』でも、舞台が本当によければジュンス以外の回のチケットが売れ始めたはずで、そうならなかったことが作品自体への評価なのだと思います。
ぜひ再演してほしいですね。
トライアウトやプレビュー、再演を通して練り直していくのは、韓国で一般的な手法ですから。(o^-^o)
chamiさん
返信削除私もジュンスの回を見てみたかったです。比べてみたかった~。
ジュンスの回とそれ以外とで演出が部分的に違っていた可能性なども否定できないですしね。
メインキャストによって客席の入りと雰囲気が全く違うのですから、他の俳優さんたちは非常にやりにくかったのではないかなぁと想像してます。
超満員でhotな回と入り50~60%のcoldな回とで同じテンションを維持し続けるのは、それができてこそのプロとは言え、並大抵のことではなさそうです。
はじめまして。よく拝見させて頂いております。
返信削除ジュンスファンで、「芳しくなかった」と思った方は、かなり冷静に舞台を判断できるファンの方だと思います。
ほとんどのファンは、まず、ジュンスが歌っているだけでも感動していたようです。
実は私もジュンスファンで、2回観劇しましたが、私の両隣、前後左右には、感動して涙ぐんでいる方がたくさんいらっしゃいました。(私はそのように感動はできませんでしたが。)
「ジューンが歌っている間、舞台に人がいない」というのは気付きませんでした。
素晴らしい着眼ですね!
ちなみに、私はもう1人別のキャスト、チョン
ドンソクさんの回も拝見しました。
集客は、日曜の昼だったためか8割くらいは埋まっていたと思います。
驚いたのは、まわりがカップルだらけだったことです。
ジュンスの回は女性ばかり。ドンソク氏の回はカップルだらけ。
客層が全く違って面白かったです。
こちらは、涙ぐんでいる方もあまりいませんでしたが、拍手などは皆熱心にしていたと思います。
しかし、このチョンドンソクさんという方、歌は非常に上手かったです。
ちょっと、唖然とするほど上手でした。
これからが楽しみな俳優さんだと感じました。
hiroさん
返信削除ジュンスファンが感動してただろうな~というのは、私も想像できました。
逆に、ジュンス以外のキャストでは、舞台の空白部分を埋める華やパワーが不足してることも明らかでした。
ジュンス以外のキャストの回に盛り上がらないのは、俳優自身の責任ではないので、ちょっと気の毒でしたね。
韓国のミュージカル、観客の主流は若い女性(と彼氏)と言われてます。
さらに、若いカップルのデートコースとして、ミュージカル観劇+食事、というのが一般的になってます。
彼女が見たがるので、彼がチケット買って、一緒に劇場へというパターンですね。