芝居好きの仲間内で、「最近は役者目当てのお客さんが多いから……」とやや批判的に語られることがままあります。テレビで見てファンになった××さんを生で見るために演劇公演のチケットを取り、劇場ではひたすら××さんだけに熱い視線を送り、家に帰ると××さんを絶賛するブログ記事を書く、というようなお客さん。確かに、劇場で増えているように感じます。
「役者目当て」自体は非難されることではないと思うのです。「役者目当て」で劇場へ行っても、芝居の演出や役者の演技をしっかり見てくれるなら結果オーライ。
というわけで、「爆笑レッドカーペット」で高橋克実さんのファンになった(ショムニもトリビアも見てない)ワタシが、生・高橋克実さん目当てで、行ってきました。シス・カンパニー公演「夜の来訪者」。
2009年2月28日(土)18時30分
紀伊國屋ホール
F列4番
J・B・プリーストリー作「インスペクター・コールズ」より
翻案:内村直也
演出:段田安則
某オフに参加しての観劇でした。チケットの確保、宴会の手配と、幹事さんにはお世話になりました。ありがとうございます。
ひと言で言えば、個性豊かなキャストに幻惑されつつ、役者さんの演技を楽しんだ舞台でした。
事前に 元の戯曲を読んでます 。今回の舞台は「翻案」とのことで、原作と今回の舞台の違いをいくつか。
◆原作は三幕もの。舞台は二幕、戯曲の第二幕半ばで分けてます。
◆原作の舞台は「1912年、イギリス・ミッドランド地方北部の工業都市ブラムリー」。舞台は「1972年、日本のどこかの地方都市」(セリフから東京でも大阪でもないと分かる)。
◆訪ねてくる男の肩書が、戯曲は「警部」、舞台は「警官」。
◆母親の設定が、戯曲では「夫よりも社会的身分は上」、舞台は「元々貧乏で二人で懸命に働いてきた」(公演パンフレットより)。
元々、社会主義的傾向を帯びた作家による、ミステリーとサスペンスで味付けをしたイデオロギー作品です。作品の根底に「資本家vs労働者」という構図があります。
そのため、現代の日本人には共感できない部分も多く、その一方で、「派遣切り」が社会的問題となる現代日本に通じる部分もあります。上演のタイミングがこの作品に不思議な立ち位置を与えました。企画は去年9月以前に通ってたと思うのですけれど。
冒頭、映像を利用したタイトルが工夫されてます。田中角栄、横井庄一、浅間山荘、ミニスカート、笠谷のジャンプ、パンダ……を一瞬見せて1972年という時代を想起させる手法。幕が開くと、居間の掃除をする女中(梅沢昌代)が「喝采」を口ずさみます。
舞台は最初から最後まで「秋吉家の居間」。訪問してきた「警官」(段田安則)の尋問に応じるうちに、工場経営者の父親(高橋克実)、娘(坂井真紀)、娘の婚約者(岡本健一)、母親(渡辺えり)、息子(八嶋智人)ら全員が自殺した若い娘と関わりがあったことが判明していきます。
それぞれの役者さんの演技がじっくり見られる芝居で面白いです。個性的なキャストを贅沢に集めた甲斐あって、見ごたえ十分です。
「お目当て」の高橋克実、「爆笑レッドカーペット」司会のイメージと意外に変わらず、嬉しかったです。どっちも着物姿だし。とんでもないところで渡辺えりに足踏まれて(演出)、笑い取ってるし。
所々で、日本語脚本のセリフに違和感がありました。待遇表現のズレ(ミス?)とか、母親のセリフの不自然さ(例えば、「恐喝的に」の使い方、山手言葉と下町言葉の両方を使うこと)とか。1972年という時代設定や夫婦の人物像を意識して、あえておかしな表現を採用しているのかもしれませんけれど。
結末は原作通り。あの「警官」は一体?という疑問は解けないし、矛盾点も指摘できるでしょうが、謎が残されたまま終わるリドルストーリーと考えれば、よくできていると思います。
やっぱり 映画 も見たいな~。どこかに英米のビデオかDVD、ありませんか~?