ちょっと前の出来事です。
山手線に乗って座席に腰掛けて本を読んでいました。ふと目をあげると、前に立っている人がくずし字柄のアロハシャツを着てるではありませんか。目の前にくずし字があれば、解読せずにはいられません。職業病です。
ちらちら上目遣いにチェックしたアロハのくずし字は、「君がためをしからざりし」とか、「うきにたへぬは涙なりけり」とか書いてあります。百人一首ですね。一首丸ごとではなく、いくつかの和歌の一部だけを繰り返しプリントしたものです。趣のあるデザインの和柄アロハです。
文字の内容が分かってみると気になるのは、このアロハを着ている人、百人一首の和歌(の一部)が書かれていると知った上で着てるのかなぁ、ということでした。ジーンズは鯉の滝登りの刺繍入り、大ぶりのメタル系アクセサリーじゃらじゃら。「俺は日本男児だ、文句あるか!」って雰囲気のファッションだったんですよね。20代後半と思しき男性です。
「君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな」(藤原義孝)は、「あなたのためには死んでも惜しくはないと思っていた命ですが、あなたと逢った今では長生きしたいと思うようになりましたよ」という恋の歌。
「思ひわびさても命はあるものを憂きにたへぬは涙なりけり」(道因法師)は、「片思いの恋に苦しみながら、それでも命はその辛さに耐えていますが、涙は耐えきれずとめどなくあふれてしまうのです」という意味の、やはり恋の歌です。
こんなふうに恋々とした心情を和歌に読んだりするのが、平安時代の貴族階級「日本男児」なわけですが、山手線の「日本男児」はそのへんも納得して「百人一首の和歌アロハ」を着てたのでしょうか……。
気になるなぁ。
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