2009-06-08

[歌舞伎]六月歌舞伎座 昼の部

 この日は三階席に団体が入ってました。3階A席通路前の1~23番まで、通路後ろの1~28番までを制服姿の男子高校生が占め(4列24番の私の隣は高校生)、イヤホンガイドを耳に行儀よく見物してました。正味4時間、伸び伸び育った身体をすくめ、長い足を縮こめての観劇、お疲れ様でした。
 5年後でも50年後でも、歌舞伎も結構面白かったような……って思い出したら、また来てね。その時のために歌舞伎座は存在し続けていなくては。






2009年6月5日(金)11時
歌舞伎座
3階4列24番



「正札附根元草摺」
 松緑の曽我五郎に魁春の舞鶴。見る前は二人のバランスがどうかと思ってましたが、違和感なく。なぜ六月に曽我物?という違和感は拭い切れませんでしたが。



 松緑はやはりこの手の役が本役ですね。性根を押さえた堂々たる五郎です。
 魁春がこれまた立派。昨年10月国立劇場の「大老」で井伊直弼(吉右衛門)の側室・お静を見た時、魁春の女形芸、六代目歌右衛門お仕込みの「本格」に感動しました。今月の舞鶴で、次代の立女形はこの人が本流本筋なのだと思わされました。
 魁春の揚巻、見たいです。




「双蝶々曲輪日記」
 幸四郎の濡髪長五郎、吉右衛門の放駒長吉、兄弟の大顔合わせ。二人並んで床几に腰掛けているだけで、歌舞伎座がいっぱいに満たされます。




「蝶の道行」
 梅玉・福助のコンビで。この踊り、見るたびに振りが違うと思うのは気のせいでしょうか。固定された振りがない踊りなんでしょうか……。




「女殺油地獄」
 「片岡仁左衛門 一世一代にて相勤め申し候」の口上付き。



 2007年7月、ミュージカル三昧を目的にブロードウェイを目指し、ニューヨークへ到着して最初に読んだメールは「松竹座、海老蔵が怪我で休演、与兵衛の代役は仁左衛門」という驚愕のニュースでした。
 「女殺油地獄」の与兵衛は、仁左衛門が二十歳の時から演じ続けた当たり役かつ出世芸。もう一度見たいけれど、本人の年齢的・体力的な理由からもう機会はないと思っていたのが、代役とはいえ実現し、恐らく事実上の一世一代になるだろう舞台。ニューヨークでの予定を全キャンセルして、JFK空港から関空へ飛ぼうかと、宿で真剣に考えました。
 あの時、「与兵衛代役仁左衛門」の一言で、東京(その他各地)から道頓堀へすっ飛んで行った歌舞伎ファンがどれだけいたことか。



 そんな曰くつきの仁左衛門与兵衛、今月は正真正銘の一世一代。いい与兵衛でした。河内屋与兵衛がそこにいる、としか言いようのない舞台。この作品の与兵衛の人物像については、すでに論じ尽くされている感があるわけですが、仁左衛門の演技を見ていると、与兵衛はこういう奴なのだ、こういう男だから与兵衛なのだ、と素直に思えてしまいます。目の前に実存する「与兵衛」の説得力、とでも言いましょうか。
 孝太郎の豊嶋屋お吉、中途半端なおせっかいのウザさが与兵衛を追い詰めていくのがよく分かります。今回の舞台、難があるとすれば、ここが分かりやす過ぎる点かもしれません。
 正直、孝太郎のお吉は無理じゃないかと懸念してたのですけど、予想外の大健闘。でも、一世一代、他の役者で見たかったとも思います。



 もう一度見ておきたいのですが、幕見も人が溢れてるようで……。



2 件のコメント:

  1. ご無沙汰してます。仕事中なのに気分転換に書き込みします。初めてですがよろしく。
    同じ日に休みをとってかみさんと見てきました。
    松島屋が与兵衛の年相応にみえるのには感心しました。孝太郎も元々地味目なだけにちょっと年上に見えましたしね。ただ、おせっかいさはご指摘のようにちと足りませんね。
    歌舞伎だからこれでいいんでしょうが、文楽の与兵衛のような仏心が修羅場の後全くないんだなと思いました。役者が演じるのは難しいけど、義太夫だと割りとすっと入るんですけどね。
    歌六、秀太郎も良かったですね。
    角力場は兄弟の達引のあと、与兵衛を吉右衛門で引窓もみないともったいないですね。染五郎のつっころばしは意外に様になっているなと感心しました。
    蝶の道行は、一度無茶苦茶けばけばしいのを見たから、これぐらいでちょうどいいです。三味線が勝負だけど、歌舞伎の床は層が薄いですね。
    魁春は随所で歌右衛門の姿が見えました。大老の後お話しした覚えがありますが、行儀よくやり続けるとここまでになるんですね。初幕にふさわしい華やかさ、気品、大きさを感じる舞台でした。

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  2. 燕三郎さん
     ようこそいらっしゃいませ~。
     お仕事中の(^-^;コメントありがとうございます。
     ちょうど授業が終わったところなんですが、今日は渡海屋の幽霊やってまして、昨日は準備に追われてました。解説がなかなか複雑で。
     歌舞伎座、同じ日にいらしてたんですね。気づきませんで失礼いたしました。
     魁春、私も歌右衛門が見えてました。それもなぞっているのではなく、しっかり自分のものにしているのに驚きました。
     地味な役者さんだと思ってたのに、いつの間にか立女形の貫録が身についていて。
     仰る通り、行儀よく積み重ねるとここまでになるんですね。どこぞの誰かに見習ってもらいたい……。
     仁左与兵衛、年相応に見えるって、あぁなるほどそうですね。見た目は決して若く見えないんですけど、年相応の人品になってました。芸の力ってすごいです。
     お吉は、孝太郎でなければ誰かといえば……仁左衛門の相手役となると意外に思いつきません。となると、やはり孝太郎でよかったのかもしれません。
     歌六、秀太郎は。油屋で二人並んだところが夫婦らしくてよかったです。
     そう言えば、この演目で小菊と母親の二役やった人なんて他にいるんでしょうか? 筋書立ち読みして確認すればよかった……。
     「女殺油地獄」の幕見へ行ってレポートを書くつもりです、と言って来る学生が結構いまして、前の幕から入ってないと多分見られないよ~とアドバイスしてます。

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