座席に座って、何気なく一枚刷りのプログラムに目を通すと、「この『ボン・ボヤージュ』は<ホラーコメディ>です」。
えぇっ! そんな話、聞いてない~。
ホラー、苦手なんです。どうしよう……。事もあろうに最前列。
2009年5月25日(月)19時30分
下北沢・駅前劇場
B列15番
作・演出:野坂実
製作:クロカミショウネン18
出演:川本亜貴代、日ヶ久保香、桃子、渡辺裕也、古賀亜矢子、加藤裕、岡田梨那、細身慎之介、久米靖馬、太田鷹史、英雅人、ワダ・タワー
舞台は2020年頃。犯罪の増加で治安が極度に悪化、犯人検挙率を上げるため、人の記憶を記録再生する装置「ハートグミ」の体内装着が義務付けられている。
ある日、ハートグミの開発に携わる研究者・武宮真智(川本亜貴代)と長女・千鶴(日ヶ久保香)が殺され、千鶴のハートグミが奪われるという事件が起こる。犯人は千鶴の男友達(英雅人)? 最後のお別れと犯人探しのため、真智そっくりに作ったハードなシリコンボディにハートグミのデータをダウンロードして、真智を「甦らせる」ことに。真智の弟・武宮幸一(加藤裕)、元夫・児玉義典(渡辺裕也)、次女・心(桃子)、同僚・周防(久米靖馬)、事件の捜査にあたる警視庁の南(太田鷹史)らが集まるが、なぜか真智の記憶データは21歳の時までしかなかった。そこへ、真智の霊が乗り移った男(ワダ・タワー)が登場し……。
ホラーで、SFで、ミステリーでした。でもって、コメディ。さらに、ヒューマンドラマ。
SF的には。
冒頭、近未来という設定を提示するため、音声認識でテレビのチャンネルを変えてみせる小ネタ、面白かったです。部屋にいる人物が宙に向かって「弥生(←音声認識装置の名前)、6」と言うと英語ニュースが流れ、「弥生、8」と言えば中国語の音声が聞こえてくるというだけですが、舞台の上で具現化されるとインパクトあります。刑事コロンボ『ビデオテープの証言』で、手を叩くとドアが開くのを見た時も衝撃でしたが、それに近い感じ。
物語の導入部をうまく作ってます。
記憶再生の理屈は、中盤以降ストーリーの展開と絡んで複雑になり、付いていくのが結構大変。役者も楽ではないようで、説明的なセリフは軽く噛んでたり。
ミステリー的には。
フーダニット(Whodunit=Who (had) done it)の形式を守り、弟、元夫、同僚、長女の男友達ら主要な登場人物全員にどこか怪しい陰があります。中盤にはミスディレクションも散りばめられて、容疑者は二転三転。
何とはなしに気になった序盤のいくつかのセリフが、ラストで一気に新たな意味を帯びて蘇りました。オセロで白黒反転するような鮮やかさ。ミステリー手法を演劇的に活かしてます。うまい。
コメディ的には。
身長195cmのワダ・タワー。異形です。見てる内に馴染みます。笑えます。
ヒューマンドラマ的には。
真智には共感できるし、次女・心の心情は切ないです。でも、ストーリーの上で、長女・千鶴の扱いがあんまりなのでは? 芝居としては、舞台を横切るホラーな歩行、あれだけでも見ものでしたけど。
ホラー的には。
えーっと …… あれ?
全体として、脚本・演出がきっちりしてるのが第一ですが、それを表現してる役者の演技に安定感あります。
ちなみに、この クロカミショウネン18 の舞台は、昨年9月、『祝/弔 ~IWAI/TOMURAI~ 』 で初めて見ました。設定と登場人物が重複する「祝」と「弔」という二つの作品を、隣り合った二つの劇場で同時開演・同時進行させるトリッキーな芝居でした。役者は、秒刻みのタイムキーピングで進行する二つの現場を行ったり来たりしながら舞台に立つという、恐るべき趣向。これがとても面白かったのです。
観客は片方ずつ別々にしか見られないのですが、それぞれ単独で見ても楽しめる作品に仕上がってます。その上で、一つ見た後にもう一つを見ると、「あぁ、ここはこっちではこういうことになってたのね」と納得が行ったりして、二粒で三度美味しい芝居でした。
今回期待して出向いた所以です。ホラーだなんて聞いてなかったし。
次回公演は10月下旬「本格ミステリー!」だそうで、タイトルは『招かれる客(仮)』。タイトルの付け方、うまいですねぇ。ミステリーなら『招かれざる客』でしょ、フツーは。
また期待しちゃいます。
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