2009-06-14

[演劇]ちゃんぽん

 韓国在住時に見そびれてた作品の日本版です。韓国での初演は2004年。
 舞台を見ながら、韓国映画「光州5・18(原題:화려한 휴가、華麗なる休暇)」と「ペパーミント・キャンディ(原題:박하사탕、はっか飴)」を思い浮かべてました。
 「光州5・18」は民主化運動に参加した光州の一般市民たちが主人公。2007年韓国公開。一方、「ペパー・ミントキャンディ」は、兵役で従軍中、所属部隊が光州へ投入されたがために無辜の市民を撃ってしまった青年の人生を描いた映画です。2000年1月1日韓国公開。
 2000年の時点で、光州事件の加害者側の「一般市民」に焦点を当てたイ・チャンドン(이창동)監督、タダ者ではありません。






2009年6月10日(木)19時
池袋・あうるすぽっと
中央やや下手寄り(全席自由席)
作:ユン・ジョンファン(윤정환)
翻訳:津川泉
演出:森井睦
出演:二宮聡、伊東知香、荒川智大、久保寺淳子、川合敏之、福沢重文、他




 舞台は1980年5月、韓国全土で独裁政権に対する民主化要求の声が高まり、光州では市民が市庁に集結しつつある。そんな中、町の中華料理屋「春来園」の出前途中のちゃんぽんが、お腹を空かせた若い軍人(実は防衛=民兵)によって奪われる。政府が光州市庁へ軍隊を出動させたというニュースが流れ、「春来園」の人々は、ちゃんぽんを奪った軍人たちのせいで大変な事態になったと思い込む……。



 面白かったです。「5・18」と呼ばれる「光州事件」を市井の庶民の立場から見た作品で、重いテーマを笑いながら見られます。そこが魅力であり、やや物足りなくもあり。



 両親のないシン・ジャンノ(二宮聡)は、独力で中華料理屋を開き、足の悪い妹ジナ(伊東知香)、ジナの恋人ペク・マンシク(荒川智大)、タバンアガシをしているジャンノの婚約者ミラン(久保寺淳子)の四人で力を合わせ、ささやかな幸せを求めて生きようとする青年。美味しいちゃんぽんを作って食べさせるのが自分の仕事、その自分の持ち場を守って生きることが大事と考え、民主化運動に加わる意志など全くなかったのに、結局は光州事件に巻き込まれていく悲劇が喜劇的に描かれます。



 舞台となっている中華料理屋では、拡声器を通して聞こえる声で市庁の様子が感じられ、テレビニュースのアナウンサーが軍隊出動を報じています。このワンクッション置いた距離感が、フツーの人の日常生活と市内で今起きつつある「事件」のギャップをうまく表わしてました。
 また、「事件」を興奮気味に伝える女性アナ(鈴木絢子)の演技が物語の流れを引き締めてます。うまい。



 市民と軍隊の衝突の場面は、「春来園」のセットの屋台崩しで見せます。「春来園」の人々が「事件」に巻き込まれて日常を失うことを象徴的・視覚的に表現してみせたもので、このアイディア、気に入りました。



 全体を通じて物足りなかったのは、登場人物たちが食べるチャンポンとチャジャンミョン(ジャジャンミョン)が美味しそうに見えなかったこと。仕方のないことですが、日本人にはチャンポンへの情緒的な思い入れがないのでしょうねぇ。この作品の中核なのですが。
 「ちゃんぽん」→「赤(スープが真赤)」→「共産主義(当時の政府は民主化運動を北の扇動による反乱と宣伝)」という連想も、日本では説明されて初めて分かることで、難しいところです。
(本場韓国の チャンポン・チャジャンミョン・酢豚の写真 を載せました。09.06.15追記)



 韓国舞踊の場面では、舞台見ながら(ソウルの舞台の演出を知らないくせに)「日本人が作ると結局こうなっちゃうんだなぁ」と感じてました。実際、韓国舞踊の場面は台本にないそうです。終演後のトークで作者が、自分は韓国舞踊を習っているのにそういう発想は全くなくてどうして思いつかなかったのか……と話してました。

 日本人が思う「韓国らしさ」は「韓国舞踊」、韓国人が考える「韓国らしさ」は「ちゃんぽん」、ってことなのでしょう。




 終演後、作者・演出家・翻訳者のトークがありました。へぇ~、なるほど~、と思った部分を抜粋してまとめると……。



◆ユン・ジョンファン(윤정환)
◇ちゃんぽん(짬뽕)のイメージ
 ・赤い→共産主義/血
 ・何でもまぜこぜ→秩序がなくごちゃごちゃ
 ・多様な味にも、一つの味にもなる
 ・庶民の料理





◆森井睦
◇台本にない部分
 ・屋台崩しから始まる暴動シーン
 ・韓国舞踊
 ・最後のセリフ

◆津川泉
◇ソウルの舞台と違う部分
 ・元のセリフは全羅道なまり。日本語翻訳は標準語。
 ・役者の人数。日本は36人。韓国は10人ほどで一人多役。




 チャンポン食べて育った役者たちが一人多役で演じる ソウルの「짬뽕」 、見に行きたい~。6月28日までソウル・大学路で上演中なんですよねぇ……。




2 件のコメント:

  1. ご来場いただきありがとうございます。
    ピープルシアターの鈴木絢子です。
    下手寄りで観劇いただいたということは私の演技エリアの目の前だったのですね。
    今回上演に関わり、資料を調べたり歴史を勉強しましたが、近くて遠い国韓国。知らないことがたくさんありこの公演を通して非常に韓国に興味を持ちました。実は1980年は私の生まれた年で、たった29年前まで軍事政権だったと知り非常に驚きました。
    日本では「ちゃんぽん」と聞くと長崎ちゃんぽん
    ��白いスープ)を連想する方が多く、私もただの食べ物のひとつとしか思っていませんでした。今はとてもおいしい食べ物!と思います。
    これからもピープルシアターをよろしくお願いします。

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  2. 鈴木絢子さま
     コメントありがとうございます。
     女性アナ、面白かったです~。語調がいかにも韓国語風で。登場の度に大笑いしてました。
     私は80年代に大学生活を送った世代ですが、同世代の韓国人に大学時代の話を聞くと、大学が封鎖されてほとんど学校へ行かなかった年がある、学生が5人集まると「集会」と見なされて逮捕されるので授業もやってなかった、なんて話がボロボロ出てくるんですよね。
     隣の国の同世代なのに、全く異なった大学生活を送っていたということを知った時は、かなりショックでした。
     チャンポン、ちょうどブログに写真をアップしたところです。
     東京で、美味しい韓国チャンポン(とチャジャンミョン)を食べられるお店があったら、ぜひ教えて下さいね。

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