シェイクスピア作『ヘンリー六世』三部作、9時間一挙上演の通し観劇です。イングランド×フランスの百年戦争とヨーク家×ランカスター家の薔薇戦争の歴史劇を一日がかりで観てみたら……同じシェイクスピア作の『リチャード三世』が見たくなりました。戯曲を読み終えた時にもそう思いました。
丸一日9時間の芝居が、『リチャード三世』のプロローグだったとは……。これって何かの罠か罰ゲームなんでしょうか?
11月21日(土)11時、15時、19時
新国立劇場・中劇場
第一部「百年戦争」 B席 2階2列72番
第二部「敗北と混乱」 A席 2階1列13番
第三部「薔薇戦争」 S席 1階14列(実質5列)62番
面白かったです。感じたことあれこれ。
万華鏡のような芝居でした。状況が展開するごとに、人間関係がパタパタと組み換わって、新しい模様として見えてくる、その繰り返しなのです。様々に変幻する人間模様を眺める面白さ。第三部、フランスにエドワード王がグレイ夫人と結婚という知らせが届いた時がその極みでしたねぇ。
諸事情で各部ごとに全く違う席で見ました。第一部・第二部を2階で見たのは大正解。舞台全体が見渡せたおかげで、人間関係が把握しやすかったです。
衣装はグレーが基本。諸卿は皆、グレーの衣服を身に纏ってます。ヘンリー六世と王妃マーガレットは白に近いグレー。ヨーク公の息子たちは黒基調のロックファッション。フランスは青、イギリスは赤、赤薔薇・白薔薇メンバーは自分の色の薔薇を胸につけ、枢機卿とエドワード妃(グレー夫人)の衣装は赤。視覚的直感的に登場人物が見分けられるようになっていて、これはとても分かりやすかったです。
舞台もグレーが基本色。前方にエプロン舞台を張り出させてます。そのために座席9列つぶした模様。大胆ですねぇ。奥行きをたっぷり取った舞台で、戦闘場面を左右でなく前後(手前と奥)に対立させて見せたのが、躍動感あって新鮮でした。
舞台面に重ねて敷き詰めた四角い布?が効果的でした。照明によって、石畳、大理石、野原、芝生、様々な地面に見えるのです。
照明で床にイングランド国王の紋章(赤地に金のライオン)やフランス国王の紋章(青地に金のフルール・ド・リス)を映し、それぞれロンドン、パリの王宮の場であることを示していたのも面白かった。この照明一つで英仏海峡を渡れちゃうのですね。
ジャック・ケードの反乱の場面はカラフルなスポットを水玉模様風に見せる楽しい照明。この場が一種のお遊びなのがよく分かります。
全体として、話が進むにつれて演出が派手になっていくので、次第に刺激が強く面白くなっていきます。赤薔薇・白薔薇の大きな旗の使い方とかヘンリー六世の空中ブランコとか。うまく計算して演出してます。
登場人物が膨大なセリフをしゃべる劇なので、役者は滑舌の良い人が嬉しい。その点、王妃マーガレットの中嶋朋子が抜群でした。セリフが力強く明瞭。相当長い出番があったにも関わらず、一か所も噛んだりミスしたりしてなかったような。役柄的にもブレのない人物で、この人に縋っていると話を見失うことなく9時間の芝居が乗り切れる、という存在感。
ヘンリー六世の浦井健司も、容姿とともに声が惰弱な役柄に合ってて気に入りました。
ヨーク公の渡辺徹、ジャンヌ・ダルクと皇太子のソニン、サフォーク公の村井国夫、リチャードの岡本健一など、役者はそれぞれはまってて、いい配役でした。
プログラムに演出・鵜山仁と劇団シェイクスピアシアター主宰・出口典雄の対談が載っています。『ヘンリー六世』三部作を上演した経験のある出口典雄が作品について語っている部分、戯曲を読んだ時の印象と重なるところが多く、興味深かったです。
「『内面的に』なんてやる必要はない。スピードをもってやれば何とか成立する芝居」「まわりの貴族たちがすぐに意味もなく敵味方に分かれる。この『意味もなく』というのが大切」「シーンをつなげて考えない」「伏線からもってくる作り方をすると何か弱いものになってしまう」等々。
出口典雄演出の『ヘンリー六世』も観てみたかったです。出口典雄が渋谷ジャン・ジャンで『ヘンリー六世』を初演したのは1981年4月だったそうで。ちょうど渋谷をウロチョロし始めた頃で、ジャン・ジャンの行列を見るたびに、この怪しい地下空間は何なんだろう?と訝しく思ってました。あの時あの空間に突入してたら、全く違う人生歩んでたかもしれないですねぇ。
来年3月の 蜷川幸雄演出『ヘンリー六世』、観てみようかと思い始めました。観劇前は、一つ観ればお腹いっぱいでしょ、と思っていたのですが。
観れば観るほど観たくなる。『リチャード三世』も観たいなぁ。
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